STEP3. 勝つKPIを選定する [全社レベルのKPIを選択する]
次にいよいよ全社レベルのKPIの選定に入ります。チームレベルのKPI運営が始まったことで、KPI管理チームは全社レベルのKPIに対してよりよい理解と気付きを得ているはずですので、全社レベルのKPI選択プロセスは、チームレベルのKPI運営が始まった後に実施しすることを推奨します。本プロセスはボトムアップおよびトップダウンの双方が混在するより対話的なプロセスとなります。
先ずは各チームが導入してきた業績指標の中から、社として重要と思える業績指標をリスト化します。同時に経営陣が考える業績指標も同様にリスト化します。この一番下のチームレイヤーと経営層のレイヤーの間にいくつもの部署レイヤーがあるはずですが、それらの部署もそれぞれ自部署の業績指標から重要と思われるものを抜き出します。KPIチームが主体となり、各チームが抽出した業績指標にどれほどのばらつきがあるのか無いのかを確認し、最終的に一つの筋の通った業績指標を採用します。組織がいかに複雑なものであったとしても、混乱を避けるために必ずチーム、部署レベルの業績指標と全社レベルの業績指標は必ず分けて設定します。
これらの作業を通して、業績指標が他の組織階層にも導入されていることが明確になり、組織の各レイヤーで下記のようなポジティブな影響を与えます。
組織の重要成功要因の理解を深める
業績改善を試みる現場での積極的な活動
この選定した全社レベルのKPIが機能するには、各従業員がKPI管理の基礎を十分に理解している必要があります。真のKPIを探すことは玉ねぎの皮を剥くこと同じで、多くの皮を剥きとらないとたどり着きません。業績指標をリストすることは比較的簡単ですが、真のKPIを見つけ出すことは非常に困難です。特に全社レベルでのKPIを一桁に絞らなければならない場合は尚更困難です。
全社レベルの勝つKPI選定のために下記の7つのタスクを実施します。
タスク1.戦略目的各要素のKPIバランシングを行う
選ばれてきたKRI、RI、PI、KPIが自社の戦略目的にバランスにバランスよく含まれているかを確認します。理想的には各部署から上がってきたボトムアップのアプローチでそれらの要素がバランス良く含まれている状態が望ましいですが、特にKPI管理プロジェクトの初期段階ではそのようにバランスの取れた状態で選ばれてくることは非常に稀です。従い、戦略目的にバランス良く含まれるためにKPI管理チームが主体となって経営陣とともにその溝を埋めていきます。
タスク2.他の指標と比べた相対的業績指標を導入する
KPI管理は通常、年次の業績評価のための指標という、本来の導入目的からすると不本意な状況に陥ってしまうことが多々あります。例えば、KPIを達成するためにマーケットシェアを落としてしまうという事態がよく起こります。
このような事体を避けるために、相対的業績指標の導入を検討します。例えば、全体の注文件数、発送までの時間、離脱率などを計測すると同時に、リピートユーザーの「比率」などなどの相対的指標を導入することを検討します。それらの相対的指標は同業他社をベンチマークして自社の相対的業績のパフォーマンスを測ることが可能です。
相対的業績指標を導入するもう一つのメリットは、業績の推移に伴いその目標を修正する必要がほとんどないということです。絶対的目標は会社の成長と共に常に見直す必要がありますが、リピートユーザー率50%的な相対的指標はその都度修正する必要がなく、後々のKPIメンテナンスが非常に楽になります。
タスク3.時制でのバランシングを行う 次に、チームレベルの業績管理選定時と同じように時制でのバランシングを行います。 世界中のほとんどの指標が過去に関係する指標です。しかし、将来の売上は近い将来に顧客と設定されているミーティングの数に依存しているはずです。このような顧客との予定されているミーティングの数などの指標は将来の指標になります。また、顧客クレームの数は一見起こった件数という意味で過去の指標のようにも見えますが、今から正に顧客対応費用が発生するという意味で、現在、また将来の指標と言えます。
タスク4.全社レベルのKPIを一桁に制限する KPIをいくつにすれば成功するというようなマジックナンバーは存在しません。しかし、ほとんど全ての組織が10以上のKPIを必要とはせず、多くの場合5つ以下のKPIで十分です。もしKPIが何十個も並んだKPIシートが作成された場合は、本書のステップのどこかが間違っているということです。真に重要な指標は会社の業績を劇的に動かす力があり、それ故に選出が難しく、ひとたび正しく抽出されれば会社の業績に大きな貢献をします。そのように強力な指標が10個以上も存在できるわけがないので、KPI管理チームと経営陣を中心に慎重に抽出していきます。
タスク5.全社レベルの業績指標が進化するのを認める 通常一度や二度の試みで完璧なKPIを抽出できることはありません。またひとたびKPIが設定されたら、各チームの問題の解決と目標の進歩とそれに伴う各チームのKPIの進化と共に、全社レベルのKPIも常に進化していくべきです。チームレベルのKPI設定の時に従業員にチームレベルのKPIが進化するのを認めることで、従業員がリラックスしてKPI管理に対応できるように促したのと同じように、全社レベルでもKPI管理チームと経営陣がこの全社レベルのKPIがフレキシブルに進化することを認めることを宣言をすることで、各チームがより自主的にいろいろな提案をボトムアップで行える土壌を作ることができます。
タスク6.全てのKPIが正しいKPIの特徴を持っていることを確認する 全ての抽出されたKPI候補が前回の記事で詳しく触れた、下記のKPIチェックリストに合致することを確認します。
測可能で頻繁に計測される(24時間、日次、少なくとも週次で計測可能)
従業員によるどのようなアクションが必要かが明確に示され、的確なアクションが自然に生み出される(コントロール可能)
責任者が明確(社長はいつでもチームリーダーを呼び出し必要なアクションを取らすことが出来る必要があります)
財務関連の指標ではない(円やドルでは表示できません)
社長及び上級役員によってトップダウンで推進されている
会社の業績に大きなインパクトがある(いくつかの重要成功要因や戦略目的達成の成否に直結する影響力をもっています)
タスク7.全てのKPIをテスト運用する いかなる企業も一度で正しいKPIを抽出することはできません。ひとたびKPI候補を設定したら、そのKPIが従業員に対して、望ましい勤務態度の変化をもたらすように働きかけているかどうかを注意深く観察し、評価する必要があります。そのためにはKPIレビューの時期を事前に決めた上で、数ヶ月試験運用を行い、それぞれのKPIの運用結果を検証し改善していくようにします。
本ステップのまとめ:
全社レベルの勝つKPIの選出により、組織に大きなインパクトがあり、指標達成のための従業員の適切な行動を誘発し、日々の業務が全社の戦略目的に合ったものとなります。
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